早起きしたら、なんて考えていたが、結局9時ごろに起きるのが精一杯だった。
昨日よりは雲が多いが、それでも上々の晴れ。ライヴ日和!
10時にロビーへ集合してタクシーに分乗で浦添へ向かう。
到着してみると一応グランドオープンなのだが、すでにオープンしていた店舗もあるせいか、取り立てて「オープンでございます!」みたいな雰囲気は感じないのが沖縄ぽい。
それでも記念にボックスティッシュを配るようなサービスはやっていて、気づけばステージとしてセッティングされているのが、もろにその入場導線の脇で、立ち止まって聞いてもらえるのか少し不安になる。この不安はやがて現実化するのだが…。
現場では音響の男の人と、助手の若い女の子のふたりが待っていてくれた。
モニタもアンプも、そしておいらのドラムセットもばっちり揃っていて、ようやくライヴやるんだ、という気になってくる。さっそくセッティングをはじめる。
プライドリームの宮城さんともご挨拶する。今回の手配関係は宿をはじめ大変お世話になったのだ。
せっかく呼んでもらったのだから、いい演奏をしたい。
ガムテープをベタベタ貼り付けてタイコの音を調整する。
自分の場合、バシバシするのがあまり好きでないので、適当にアタックがまろやかになるようにしている。バスドラムのヘッドがバンバンするタイプだったので、かなり苦労して音を作った。
しかしいつも実際に録音を聴いてみるまでは音のことは正直なところわからない。とにかくその時々で気に入るまでやっているわけ。
カマチョは歌に集中している様子。デグチ、タカツカ両氏もほとんどセッティングは終えて指を慣らしているのが、ちとうらやましい。
軽く弁当を食べて、2時。いよいよ沖縄初のステージだ。いつもの出囃子に乗って登場。
「ひとりぶんのチケット」がスタートした。上々の滑り出し。
お客はどうか?
少しびっくりして立ち止まる様子の人が三々五々見受けられるが、若干遠巻きに見ている感じ。
カマチョは芸人ぶりを発揮してアドリブを連発するのだが、いかんせん奥まったところにステージがあるためお客さんの反応がわかりづらい。
しかしいったん演奏を始めてしまえば作動モードに入るのがバンドという生き物。どんどん演奏していくのである。
実はファーストステージは普段より若干テンポアップしてやろうということになっていた。
ノリよくやりたいのがその目的。しかし思った以上に立ち止まってもらうのに苦戦している。
1曲は聴いてくれるのだが、いったん演奏が終わると歩いていってしまうというパターンが多い。
もう少しじっくり聴いてもらえたら…と思いながらライヴは進んだのだが、最後のほうはお客さんのことも意識から離れ、かなり演奏だけに集中していた。
こうして沖縄ではじめてのステージは終了。予定通り1時間のフルステージとなった。
休憩時間、ステージ後ろのテーブルでつかの間休息する。西日が差し込んでる。強い。
次のステージのテンポは、もともとやって来た通りにしようということになった。
聴いてもらいたいなら、曲本来のよさが伝わるテンポにするのがいい、というのが
実感として生まれたからだ。聴かせたいし、聴いてもらいたいからである。
4時からセカンドステージがはじまった。ファーストと比べて音が落ち着いた気がする。
このまま行くぞ。お客さんも、数曲聴いてくれる人など、ちらほら「観客」が現れてきた。
スタート直前にデグチさんがオバアに「何時からやるの?」とか聞かれてたしなあ。
皆、ライヴやってるよ~、見に来てくれよ~。カマチョも繰り返しMCする。
新曲「あなたといつまでも」の反応がやはりいい。トランキル式青春歌謡。
買い物帰りのオジイも、まぐろを手に拍手してくれる。
しばらく見てくれていたが、ぶら下げたまぐろは大丈夫だったのだろうか?
いいお客さんだ。
今回トランキルが沖縄へ来ることができたのはこのショッピングセンター「バークレーズコート」を仕切る座安さんのおかげなのだが、その座安さんもご夫婦で見に来てくれた。
後でカマチョから聞いたが、基地まで聞こえるように歌え、と応援してくれたらしい。
そうトランキルには戦争の馬鹿馬鹿しさを歌った「音楽」という曲もあるのだ。
ステージの最後の曲は「got to tell you」。これは昔の戦争を歌った曲。
缶カラ三線(サンシンと読みます)、沖縄の海、空…、
そしてライヴが終わった。
音響は非常によかった。
天井があるので自然とリバーブが効いていたせいもあるが、その中で聞き易い音づくりをしてくれようとしていたのが、あとから録音を聴き返すとよくわかるし、ビデオでもちょくちょくPAのスピーカーの前へ出てきて音をチェックしてくれる姿が映っていた。感謝です。
1時間×2ステージはどうだったかというと、肉体より精神的に疲れたという印象だった。
これはお客さんからのエネルギーとはどういうものであるかを、図らずも実感するライヴだったといえる。
つまり、普段はお客さんがいる状態で知らず知らずのうちにエネルギーをもらって演奏していたということに気づかされたのだ。
許可をもらってステージ前にテーブルと椅子くらい出せたなあ、と後から思うが、これこそまさに後の祭り。
そういう余裕をもってライヴやらなきゃなあ。いい経験した。
片づけして、関係者へお礼をして撤収。再びタクシーでホテルへ戻る。
帰りは若干道が混んでいた。いつものラッシュアワーなのか。夕焼けがきれいだ。
ホテルで機材を降ろしてロビーでとりあえずカマチョとビールで乾杯。
一服しようとしたら、もう座安さんが来るという連絡が。
今晩はごちそうになるのだ。
座安さんは昼のスーツとは変わってかりゆしウエアで登場。さすが似合っていてかっこいい。
小禄までゆいレールで出かける。駅を降りてすぐのイタリアン・レストラン。
沖縄でイタリアンとは思わなかったが、逆に沖縄の人は毎日沖縄料理なのだ。
料理もワインもおいしい。座安さんの奥さんと高校生の娘さんも途中で加わり、おしゃべりに花が咲いた。
座安さんは若かりしころ東京で学生時代を過ごし、その後沖縄へ戻って今は事業をされている。
聞けば聞くほど色々な話が出てくるのだが、とくに沖縄の精霊信仰について、自身の体験を織り交ぜて語ってくれたことが自分には興味深かった。
エピソードはたくさんあるのだが、これは直接本人から話を聞いたのでなければとても伝わらない部分が多いのでここでは割愛するが、座安さんの哲学ともいうべき持論を自分流に解釈し、ものすごーく簡単に紹介すると、
「人間は植物の亜種。地球上の生命の大いなる部分は、動物ではなく植物なんだ。だから私はアニミズム論者なんだよ。人格神の宗教と違い、アニミズムはシンプル。いつでも道は右か左しか示さない。進むのは自分で、もし失敗すれば命を失うようなことだって
時にはあるのさ。」
ということだった。
これには正直シビれた。
実は長年自分には「何かの境界線上に」存在しているという自意識が強かったのだが、そのことについて大きなヒントをもらったように感じた。
大きな出会いに感謝しつつ、夜は更けていく。
文責:かつお@Drums