2006/06/19

DVD販売日記 第2話

こちらも以前とは違い
会社勤めなんで
アメリカ政府に寄付しよーとしてた
バクダイな財産を
ギャラに回す事はた易い!
いやしかし!かかし!おかし!ふがし!

「昔、バンドの練習の後、
よく公園で、ビール買って飲みましたよね」
えっ?
昔は居酒屋に行く金もなかったんだなあ、
貧乏だったなあ、
忘れてたなあそんなこと・・・。

英典は銀座の一流会社で働き
大手企業の顧客を持ち
着々とキャリアを積み上げ
昼飯も夕飯も銀座で食らい
タクシーで毎日帰宅しているにもかかわらず、
えらく小さな会社で働き
音楽は道楽と頭を切り替え
カップ麺の昼飯を食らい
自転車で通勤しちゃってなんかいる
僕なんかより、
昔の思い出を
大事にしているんじゃなかろーか。

そう勝手に思うと、
なんだか涙が出そうになるのだった。
英典さぁ、
僕たちったら、
あんまり、変わってないんだね・・・。



それからの英典は、容赦なかった。
夜中に電話で起こされ。
「今、データ送ったんで、文字校してください」

で、文字校を仕上げると、
また数時間後。
「さっきのラフなデザインより、グッと良くなったでしょ」

うわ、文字直しただけじゃなかったのか。
今何時なんだよ。
何故そんな頑張ってくれるんだよ。
眠いけど泣いちゃうぞ。


バンドのメンバーにも転送し、
すこぶる好評のジャケットが完成。
銀座でデータと色見本を
受け取ることになった。

「ドトール行きましょ」
え!
銀座にもドトールあるの?
もっといい店でいいど!

「風月堂なんて、銀座っぽいですけどねえ」
・・・。
い、いかん、高かったらどーしよー。
英典ゴメン、
僕、臆病。
っつーか、英典、
何でそんなに僕の気持ち分かる?
エスパーか?
エスパー英典か?

ドトールでコーヒーをすすりながら
英典の説明が続く。
「ここの文字は必ずこの濃さで。
コート紙の135kgから160kgを使ってください。
このフォントも、既成のものにだいぶ手を入れてるんですよ。
タイトルの文字が白だから、使った写真も、白い所は、色を加えて、文字が目立つようにしてるんです。」

1時間で作れますから、
と英典が言うから、
僕は頼んだのだ。

なのに、英典の仕事は、
数時間以上かけないとできないような
細部に努力を施した
とても手の込んだものだった。

「いいんですよ、楽しんでやりましたから」

前述のCD製作以来、
6年ぶりに会った英典は、
仕事の苦労からか、
17kgも太っていた。
でもね、これはね、
心の栄養と正比例してるんだぜ、
きっと。



これでまた、しばらく英典とは
会わなくなるんだろう。
寂しいけれど、
あいつと僕とは、
そんな距離で
お互いをたまに思い出すんだろう。

この後、またしばらく会わなくなるだろうから
今日、ギャラ持ってきたんだよ。
いくら渡せば、いいかな?
相場が全くわかんない。

「かまっさん、今度でいいっすよ」
今度って?

「高いですよぉ・・・!
明細、送っちゃいますからね」
今度って?

「6年前、かまっさん、モンゴル料理奢ってくれたんですよねぇ・・・」
またしてもよく覚えてるなあ、
ギャラが払えなくて、
その代わりお世話になった人皆を
モンゴル料理屋に招待したんだ。

英典は、ギャラをもらうつもりが
ないんじゃないか、
気づくのが遅すぎるんじゃないか、
鈍感すぎるんじゃないか。
いや、ちゃんと請求してくれるかも、
いや、核心を考えろ、俺。

6年間、一切音信不通だったのに、
何でこんなに優しいんだ。
何でこんなに友情があるんだ。
俺はいい先輩じゃない。
むしろただの、たかり屋だ。



ドトールの最中、
英典に頻繁に携帯が鳴った。
仕事の電話だ。
うわ、英典の携帯、すげー古い。
白黒画面だ!
だっせー!
デザイナーとは思えないかっちょ悪さ。

「かまっさんのも古いっすねー!」
お互いの携帯を見て、
6年分笑った。


劇終

投稿者:トランキルのハンドマイクの方

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